マンションの屋上でフェンスの上に座りあいつが先刻よこしたポッキーを
口に運んでいると急に変なことを言い出した。
虎鶫は哀しげに鳴く
トラツグミハカナシゲニナク
「鵺君」
「・・・・何だよ」
「僕のこと嫌い?」
「は?」
こいつの物言いはいつだって突発的ではあるが今日はいつにも増してだった。
不覚にも手に持っていたポッキーを落としてしまい、今自分の居る高さを考えると
それはもう地上に叩きつけられて粉々になってしまっているのだろう、と思うと何だか溜息がつきたくなった。
一呼吸おいてから鵺は質問を投げ掛けた男・・・もといスピットファイアに聞き返した
「どういうことだよ」
「そのままの意味さ」
「はァ?意味わかんねーよ」
「嫌い?」
「・・・・嫌いだよ」
少し待てばいつものようにそれでも僕は好きだけどね、
という言葉が出るのを俺は待っていた。
それはとても悔しいことだけれど。
「・・・そう、じゃぁ僕も君が嫌いだ」
「!」
ずきり、と胸のずっとずっと奥が痛くなった
待ってくれ、どうして痛むのか。
「どうしたの鵺君」
「・・・・・・・・・・」
「そんな辛そうな顔しちゃって」
「・・・・・・めろ・・・」
「いつも君は僕に言うじゃないか、嫌いだと」
「ッ・・やめろ・・・!!!」
気付きたくない
気付きたくないのに
気付かざるを得なかった
限界だ。
ガシャン、と豪快な音を立ててフェンスから飛び降り給水タンクの後ろに逃げ込む。
本当は逃げたりなんかしたくなかった。
ましてや、こいつからなんて
コツ、という足音が自分の目の前でする。
頼むから、これ以上踏み込まないでくれ
「・・・・・鵺君」
「・・・あっちいけ」
「ごめんね、意地悪しすぎたみたいだ」
「・・・あっちいけよ・・」
「行かないよ、行ったら君は泣いてしまうだろう?」
「ッ誰が!!」
顔をあげギッと睨む。それでもあいつは笑顔のまま
・・・図星だった。
いっそ思い切り泣いて全てを流してしまいたかった
そんな情けない事出来るわけもないけど。
「早く・・・っ・・帰れよ・・・」
「だから帰らないってば」
「・・・オイ」
「鵺君僕のこと好きかい?」
「うっせーな、何だよお前!」
「だって、気になるじゃない。僕はいつだって本気だよ」
言葉に詰まってしまった。
もうこいつが何を考えているかなんて俺には全く理解できない。
理解したいなんて、ちっとも思わないけど
「ねぇってば」
「・・・・・・」
「黙ってるって事は肯定ととっても?」
「あーもーうっせーな!好きに受けとりゃ良いだろ!」
目の前にすとんと座り俺の頭を撫でる。
にこにこと、厭味なほどの笑顔を向けているにも関わらず何故だか嫌な気はしなかった。
「好きだよ鵺君」
「・・・ん」
「さっき落としちゃったポッキーも新しく買うから」
「・・・ん」
「だからキスさせて」
「・・・ん」
「ほんと?じゃぁ遠慮なく」
・・・ってちょっと待て!
「ばっ・・・ジジイ!やめろ・・!」
「心外だなぁ、僕まだ若いのに」
悔しいけれどこの腕力には敵わない。クソ・・・
ぎゅ、ときつく目を瞑ると掠め取るようにキスをされた。
・・・・ほっぺたにだけど
「こっちはまた今度ね」
「・・・・」
物凄い嬉しそうな顔で俺の唇を指す
腹立つ・・・!!
それでも憎めないのは、なぜだろうか。
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20041009
遂にスピ鵺・・・!こんなので良いのだろうか・・・嗚呼
ご存知の方も多いとは思いますが、虎鶫っていうのは鵺の別称です。